税込¥638(本体価格¥590)
フランス南部に位置するアルデッシュ県は、世界に知られる栗の名産地。森林が多く冬の寒さも厳しいという地理・気候条件に適応した品種を選び増やしながら、数世紀にわたって栗栽培が継承されてきました。水はけがよく乾いた土壌も、地中深くまで根を張る栗の木には最適です。この地に生まれたサバトン社は、100年以上にわたって地元産の栗にこだわり、栗の風味を最大限に生かす製品をつくり続けています。なかでも厳選した栗を使ったマロンペーストは、世界中のパティシエが製菓材料として愛用。甘い香りのバニラを加えることで、栗の味をひきたて、よりまろやかな風味に仕上げています。
樹齢100年を優に超える伝統的な品種が残る栗林の多くは、標高400~800mの山中の斜面にあります。作業が容易な場所ではありませんが、6月半ばの開花から10月から11月に行われる収穫まで、余分な枝や葉の剪定など細かい手入れが欠かせません。除草のために羊を放牧して自然農法を行っている農家もあります。栗の伝統品種の特性を継承するため接ぎ木を行いますが、十分な収穫ができるまで20年。長いスパンの作業です。「さまざまな世代の木々が隣り合う栗林は、過去から引き継ぎ、次の世代につなげるヘリテージ(遺産、継承物)です」とサバトン3代目社長のクリストフ・サバトンさんは語ります。
マロンペーストづくりは栗の品質チェックから始まります。まず栗を半分に割って果実の大きさや質を確認。さらに水を張ったタンクに栗を入れ、害虫被害で軽くなって水に浮いた栗も除去します。製品に使われるのは、こうした厳しい検査をクリアした栗のみ。製造工程は、1950年代に鬼皮と果実の分離が機械化された以外、100年前とほぼ変わっていないそうです。スチームした後に鬼皮を取り除き、果実を粉砕してフィルターを通し、シロップを加えて煮詰めます。もう一度フィルターにかけて苦みの原因となる渋皮を丁寧に取り除いたら、1時間30分ほど煮詰め、最後にバニラを加えて完成です。
サバトン社がめざす理想の製品とは、栗本来の風味と栗らしい食感が感じられるもの。そのため、柔らかさを保てる最大限の栗の量を計算した上で、まろやかな風味に仕上げるための砂糖、栗の香りを生かすバニラとの調和をみつけていきます。もっとも難しいのは、質の高い栗を毎年そろえること。年間4万個ものサンプルを検査して厳格な品質管理を行い、つねに高い品質を追求し、量より質のモットーを貫いています。栗は大変繊細ですから、最新機器でも渋皮を完全にとり除くのは難しく、最終確認はスタッフの目視と手で行っています。スタッフの五感と経験が、品質を支えるために不可欠なのです。
ボルドー郊外にある大手洋酒メーカー・バーディネー社が手がける「ネグリタ」の歴史は、1857年にさかのぼります。ネグリタはスペイン語で黒人の若い女性を意味し、発売当初から現在にいたるまで、ボトルに描かれた少女の横顔がトレードマークになっています。材料のサトウキビは、フランス領であるカリブ海に浮かぶマルティニーク島とグアドループ島、インド洋上にあるレユニオンの自社畑で栽培。まず絞り汁を煮詰め、砂糖の結晶をとり除いた後に残る糖蜜を蒸留し、一部はオーク樽で熟成させます。こうしてできたさまざまな原酒のラム酒をブレンドし、フランスでボトリングしています。
加熱したフルーツやナッツを思わせる濃厚な風味と芳醇な香りが、「ネグリタ」の特長。菓子の風味を高める“食べるラム酒”としてフランスの家庭では身近な存在です。この味と香りのカギは、原酒の質の高さと芸術ともいえるブレンド技術。サトウキビの個性が際だつラム、木樽で熟成させてバニラやナッツの風味を伴うラムなど、多種多彩な香りや味、色をもつ原酒のなかから、セラーマスター(醸造責任者)たちが使用する5~6種を選び、割合を緻密に計算します。いつの時代も変わらぬ「ネグリタ」の味と香りは、蒸留や熟成の徹底した技術、職人的な知識と経験によって守られ続けているのです。